ひと昔映画日記

素人の映画雑食日記 それこそ我が映画道

ハート・ロッカー(2008)

戦争映画というよりは・・・
監督:キャスリン・ビグロー
言わずと知れたアカデミー受賞作

ある爆弾処理班の班長が任務中に殉職。
その後任として配属された新班長が主人公のジェームスです。

イラク戦争といえばついこの前のことでリアルタイムでも記憶に新しいところですが、正直大半の人と同様に実感には乏しい。

更には、恥ずかしながら近代戦争事情にも明るい方ではなく知識も浅い為、
この映画がどれほどリアリティに訴えているのかが判別できない。

とはいってもアメリカ軍の犠牲だけを考えたら中東戦争の時はかなり少なかったよう記憶があるけど、それでも0ではなかった。
0ではないということは、中東戦争で戦死された方はリアルにいるわけで、そのことを思うと映画の内容そのものとは違う次元でリアリズムを感じずにはいられない。

なんとなくフィクションとドキュメンタリーの中間のような心境で鑑賞していた。
今まで観た戦争映画と違って女性が撮った感じがなんとなく伝わってきた気がした。
それは多分、ジェームスや彼を取り巻く仲間達が結構人道的で、ベトナム戦争映画で良く描かれるような常軌を逸脱した登場人物が基本的に居ないことに由来してるのかも。
その辺は意識して撮られているのかなって感じがした。
最近の戦争ではそんなに精神崩壊とかしないだけなのかもだし、イラク戦争の映画って他を観たこと無いので違うかもだけど。

ベトナム戦争、あれから約40年か。
リアリティが判別できないとは言ったものの、あの頃とは戦争事情も大きく変化していることくらいはわかるわけで当然のことながら機械化が進んでいて、今ではリモコンで飛行機を操作して爆撃したりするらしいし、冒頭で前任の隊長が殉職するシーンでも携帯を操作して起爆するタイプの爆弾が使われていた。

爆破テロという言葉は良くテレビのニュースで耳にしている。
実際のところ最近の爆破テロでは携帯電話で操作して、起爆したりとか本当にあるんだろうなぁ。。。

この映画は爆弾処理班の話なので、派手な銃撃戦とか爆撃とかそういうのはあんまり無くて
市街地での爆弾処理がストーリーの核となっている。

内容と関係ことで気になったのはカメラのぶれだったな。
かなり激しい。
それなりに臨場感を表現する一つの材料として私は問題なく受け入れたけど、だめな人はだめだろうと思った。
意図的かどうかはわからないけど。


↓以降ネタバレ
主だった登場人物は主人公以外に同じ爆弾処理班で任務に当たっている彼の部下2名。

主人公のジェームスは危険な任務にも臆することなく、積極的に爆弾処理任務をこなす怖いもの知らず。
というより、もうそんな次元を通り越していて、取り憑かれている風にも見えるほど爆弾処理に情熱を燃やしている。
かなり危険人物。
おまけに任務で処理した部品の一部を戦利品として持ち帰って集めたりしてる。
爆弾マニアというか、爆弾酔狂やろーみたいな人。

で彼の部下の一人は黒人のサンボーン軍曹。
この人はかなり保守的な性格で安全第一みたいな感じ。
なので当然、新班長の危険な行動についていけず、事故に見せかけて殺そうとまで一瞬考えたりするくらい。
殺らないけど。
そんなんだから最初はかなり衝突するわけ。

そしてもう一人は技術班?エルドリッチ。
技術班がどんな役割なのかよくわからないけど、劇中ではそう呼ばれていたから、きっと上の二人が処理班でこの人が技術班ってことか。
性格は弱気、だいぶびびり。軍医さんに度々相談ごとをしてるのでちょっと病んでる気味。


前述どおり、任務というより殆ど趣味の領域で爆弾処理作業に熱中するジェームスなもんで、班長のくせに班員の安全とか眼中に無い。
そのせいで、毎度毎度危険に晒される為、サンボーン軍曹何回もぶち切れるし、エルドリッチも益々不安定になっていく。

そんなある日、郊外で突然敵兵からの迎撃を受け、その場で戦闘状態へと突入することになる。
普段は市街地での爆弾処理をメインに活動しているだろうから、彼らにとってはイレギュラーな状況なんだと思う。
こと爆弾となると、周りが見えなくなるジェームスだが、銃撃戦においては冷静でリーダーシップもとれる頼れる班長としてピンチを切り抜ける。
このことがきっかけで、険悪の只中だった班にまとまりが生まれてくるわけだね。

だけど、ずっと気に掛けていた少年レベッカの人間爆弾事件の時は動揺から無謀な判断を下し、部下に怪我を負わせることになる。
レベッカ事件の時だってレベッカの体に埋まった爆弾を建物ごと爆破させる予定だったところ、いたたまれなくなって爆破させずに取り除く方法に変更したりと、爆弾そのもの以外の部分ではかなりの人間らしさを持ち合わせていていることがわかる。

最初は単に爆弾フェチの変態男で、テレビゲームに熱中する子供と同じように、本人が好き好んで周りの迷惑も顧みずに命がけでゲームしてるだけにのように映るんだけど、人間爆弾事件や部下の負傷を引き金にして彼自身の中で何かか変わり始めるように感じた。

追い討ちをかけるように、時限爆弾を巻きつけられて助けを求める人を救うことができず任務失敗となる。
確実に何かが動き始めたようだ。

熱中していたことからふと正気を取り戻すように自分自身を見つめなおす機会を得て苦悩する。
少しだけわかる気がする。
セーブできない長いダンジョンの後半でゲームオーバーになった時の気持ちがもっと重くて大きくてリアルな感じなのかな・・・とか。
脱力感と喪失感、そして再チャレンジする為の理由探し。
再チャレンジというのは、初回のチャレンジより建設的でなければならないという無意識のプレッシャーみたいなもの。


この主人公には1歳くらいの子供がいて、任務の合間に帰宅した時、まだ言葉を理解しない自分の息子に語りかける印象的なシーンがあるが、この時自分の息子に暗に自分が爆弾処理に魅入られていることを告白する。
妻との会話で爆弾処理を行う人がいなければより多くの犠牲者を生み、必要な任務であることを語りかけているが、彼のその言葉の真意が本心のように感じる人もいれば、言い訳のようなものに感じる人もいるだろう。

やっていることは同じでも背負うものが変われば、見えてくるものも違ってくる。


ただ、戦争映画としてはどうかなぁ
今まで観てきたものとの比較になるけど、戦争そのものの描写もあまりないし全体像も描かれていなくて、一部を拡大した偏った内容なので戦争映画として観ると物足りなさを感じる。
だけど、一人男の人生ドラマとして観る分には面白い映画だと思う

総評:☆☆☆(3.5くらい)
物語:☆☆☆
演出:☆☆☆☆
映像:☆☆☆
音楽:☆☆☆
役者:☆☆☆
制作年:2008


<ジャンル>
戦争だけど、あえてヒューマンドラマとしておく

<お奨めの気分>
価値観について考えてみたくなったら