ひと昔映画日記

素人の映画雑食日記 それこそ我が映画道

ノーカントリー(2007)

やっと観た。
ずっと観ようと思ってて延び延びになっていたよ。

収録時間:122分
レンタル開始日:2008-08-08

Story
第80回アカデミー賞4部門を受賞したコーエン兄弟監督によるサスペンスドラマ。ギャングたちの大金を奪った男と、彼を追う殺し屋、事件の謎に迫る保安官の姿を描く。トミー・リー・ジョーンズら豪華キャストが共演。R-15作品。 (詳細はこちら

いやぁすごい。。。
もうどっから手をつけていいのやら。。。


ご兄弟の作品久しぶりだったんで興奮したよー。
私はほんとにジョエルとイーサンの映画が大好きなんだと改めて認識した。


コーエン兄弟の作品はサスペンスとかミステリー系統が多いけど、この映画はタランティーノクラスのバイオレンスっぷりだったな。
ここまでやるのは結構珍しいよね。


まず気づいちゃうのがこの映画本編中の音楽がない。
そんでもって、映像もカメラワーク固定が多くて動きが少ない。
そのせいなのかどうか、静かで淡々とした雰囲気がドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥り、妙なリアリティを生み出している感じがする。
フィクションなのにね。
なのに、なんか実話を見せられてるような気分にさせられるんだわ。


それだけにとどまらず息の詰まるような緊迫したシーンでも効果は絶大で、久しぶりに映画観ていて驚きの声を発してしまったし、観ているこっちが追い詰められてきて、堪らずDVDを一時停止してブレイクタイムをとってしまいました、、、(反則)
いやぁ、あの張り詰めた空気。
圧巻でした。


ハビエル・バルデムという役者がキラーマンの役で登場するんだけど、この人私知りませんでした。
ごめんなさい。
でも、お見事でした。


しっかしまぁ、あれちょっと衝撃だよw
トラウマになるっつーの。
おかっぱみたいな変な頭で、ニヤニヤしながらボンベみたいな謎の物体抱えて、ゆったりした態度で丁寧な口調のくせに決して反論を許さない絶対的なオーラ。
「なんだこいつ、こわっ」って声に出してしまったんですが。
まだ何も起きてない!!
起きる前から怖すぎるです。

この人の演技は助演男優賞とってるんだよね。
とるよね。そりゃ。


好きだから色々観てきたけど、このご兄弟の映画でいつも好きなのは、キャラの作りこみ。
もちろんストーリーとか色々他も面白いんだよ。
面白いんだけど、クセ者揃いのキャラ設定に必ず魅せられてしまうのだな。
今回はなんと言ってもハビエル・バルデム演じるシガーが強烈。
強烈過ぎて他のキャラは押され気味。
それでも、随所に拘りは感じられるし「おっ、キタキタ!」ってなっちゃうね。

なんかの記事でも読んだけど実際、キャラメイクには相当拘るらしくてかなり細かい部分まで役者に注文するらしい。
発言を含めた性格的なクセから、動きやしぐさに至る反射的なクセまでほんとに細かい。
そういうの探して、見つけて楽しむのも私流の彼らの映画を楽しむ醍醐味みたいになっている。


油断したな。
結構、久しぶりだったんでね。
完全に素になって観てた。
何も仕掛けてないはずなんてないのにね。


とにかく冒頭からインパクト大でスタートするので、その時点で肝をわし掴みにされてしまう。
心を捉えられるのではない!
文字通り肝を握られる感覚だってば。


↓ネタバレ

そうだね、そして、このシガーと対峙するカーボーイ風のなりをしたおっさんモス。
この二人の男の攻防からこの物語は展開し始める。。。。


シガーは狙った獲物は絶対に逃がさない。
自分がそうすると決めたことは必ず実行してきた男だ。
そんな男から逃れる術はあるのだろうか?
対するモスの方も、殺し屋相手に一歩も引かない。
この男なら或いはシガーから逃れるか、下手したら返り討ちにすることがあるかも知れないという期待を存分に持たせてくれる。
生命力の強そうな男として描写されている。


そして第三の男登場!!
この事件を追い、モス救出の為動き出す男。


って、切れ者の刑事でも登場するのかと思いきや。。。
年老いていてやるせなさ全開の、トミー・リー・ジョーンズ扮するベル保安官登場。
もしもーし?
大丈夫かな、、、
っていうくらいなんか、ほんと、不安。
やる気が無いわけじゃなさそうだ、モスを助けたいという気持ちはあるようだ。
しかし、それを上回るほどの憂いを湛えている。

そうだ、憂いているのだ。
この事件に限らず、昨今の理解に苦しむような事件の数々とこの世界の行く先に。
そして、それを止めることが出来ない己の非力さに。
おじさんもう、ついていけないんですけど、、、みたいな。
そしてね、なんだか良くわからないお化けのような悪魔のようなものと対峙しているという様が、陰影とか映り込みとかを使って巧みに表現されている。
すごいシンプルな映像なのに深みと哀愁が漂う。
まさに相乗効果。


トミー・リー・ジョーンズといったら、日本では俳優としてよりコーヒーのCMの人としての方が認知度が高いのかもしれないが、いやーベテラン俳優やってくれるね。

いいです。
いい感じです。

悲しげな初老の憂いとやるせなさを見事に表現しています。


三つ巴となり、この緊迫した戦いにどのような結末が訪れるのかと期待せずにはいられない。
ベルはモスを救えるのか?
シガーはモスを仕留められるのか?
モスはシガーから逃げ切れるのか?

と、そのつもりになっちゃうわけ。
油断しちゃった私もまんまとその気になっちゃったけどね。

だけどそうでは無いのよ。
そうじゃないところが、ご兄弟らしいといえばらしい。
私はそういうところが大好きであったことを思い出す。


あれほど盛り上がった対決なのに、不完全燃焼としか表現できないような
意外で哀れな結末が待っている。


モスは天敵のシガーではなく、ギャングに殺され金も奪われてしまう。
あんな、悪魔のような男と対等に渡り合って来たと思えないほどあっさりと。
しかも、殺される場面すら描写されることも無く唐突に。
モス生前の最後のシーンでプールサイドにいた女性と「未来は何が起こるかわからない」という言葉を交わす。
その言葉通り、予想も出来ないような意外な結末。


獲物を奪われたシガーにしても、モスを殺すことはかなわなくなったが彼に宣言したとおり、モスの奥さんの元へ向かう。
このシガーという男、殺戮を楽しむ殺人鬼という感じとは少し違う。
映画の中でも「彼には行動規範がある」と表現されているが、その通り。
彼なりの自分ルールがあるらしい。
その自分ルールが何より絶対であって、殺しはそのルールを守る為の手段に過ぎないようだ。
快楽殺人鬼とはまた一味違ったより純粋で、だからこその恐ろしさを感じる。
子供の頃、割と平気で虫を殺したりするけど、そういう感じ?
善悪の判別の欠如。

その帰り道、突如どっかーん。交通事故に遭遇。
ふむ。。。こちらもまた人生何が起こるかわからない。
あれほど、自分の行動規範に誠実に生きてきた男がここにきて、思い通りにならない苦い経験を積むことになる。


そして、モスを救うこともシガーを捕らえることも適わなかったベルは引退を決める。
普通ならここで敵討ちとかでしょw
でも、そうじゃないところが辛辣で、だからこそ刺さるんだよね。


まるで現実の不条理を押し付けられているかのように、次々と期待と予測を裏切られる。


こういう見せ方、展開はやっぱりご兄弟の持ち味って感じよね。
「あーこりゃまたきた」って感じ。
いかにも主役格と思われていたキャラ達をなんのためらいもなく、しかも惨めな演出で途中退場させてしまうw
その潔さに感嘆のため息がもれる。

更に、こちらの足元を見られているような気恥ずかしさに「ちぇ、やられたな、、、」と悔しいような嬉しいような不思議な感情が湧き上がる。
この瞬間こそが、ご兄弟の映画を観ていると一番実感できる至福の時である。


前半から中盤にかけてのスリルと緊迫感。
一転して後半の不条理や虚無感を前面に押し出した悟りの一幕のような展開。
コーエンらしさで言えば後半なんだけど、今回くらいのギャップがあるのもインパクトがあって良かった。
新しい一面を知ったような嬉しい感じもあったし。



そして、ようやく気づいた。
モスが死んでやっとこの物語の主人公が、ベルであることに。
おそ、、(汗


ラストシーンで彼は自分の見た夢の話を妻に語る。
「行く先には真っ暗な場所で炎をともして、父が待っている」
というような台詞がある。
若くして亡くなった父親が先に行って待っている場所といったら、所謂あの世のことなんだろう。

この不条理で寄る辺なき世界。
どうにも居場所を失い、逃げ出してしまいたくなる。
逃げることとは即ち死を意味する。
そんな思いが夢となって表れたのかもしれない。

死んだ方がマシだと思えるほど腐りきっているようにしか、彼の目には映らない世界。
そんな、切なくて深いテーマを背負っているように感じるが、
何せいつものことながら、それを裏づけするような描写はない。
それ故、何度も見返すことで何か見つけられそうな気持ちにさせられる。

それが嫌だという人もいるだろうし、そういう人にとってみたらこの映画のラストは無責任でストレスの溜まる結末と言えるでしょう。


ぶっちゃけ表現するのがすっごく難しくて、冒頭に書いたとおりどこから手をつけていいのかわからない程自分の中でも混沌としている。
でも、私は好き。
だから好き。
あのご兄弟が何を意図していたのか知るのも楽しいかも知れないけど、
自分で考えてみるのはもっと楽しいじゃない。
ぐちゃくちゃになりながらでも、考える余地があるってことは、
鑑賞するだけにとどまらず、参加してる!って気持ちになれるわけだからね。




総評:☆☆☆☆☆
物語:☆☆☆☆☆
演出:☆☆☆☆☆
映像:☆☆☆☆☆
音楽:無いので評価無し
役者:☆☆☆☆☆

<ジャンル>
そうだねぇ、一応バイオレンスかな

<お奨めの気分>
面白いけどかなり負担がかかるので、余裕あるときね