ひと昔映画日記

素人の映画雑食日記 それこそ我が映画道

MILK(2008)

マイノリティの為に命を賭した短くも情熱的なラスト

収録時間:128分
レンタル開始日:2009-10-21

Story
ショーン・ペン主演、ガス・ヴァン・サント監督による社会派ドラマ。自らゲイであることを公表し、あらゆるマイノリティの社会的地位向上に努めた活動家、ハーヴィー・ミルクの波乱の半生を描く。エミール・ハーシュジョシュ・ブローリンが共演。PG-12作品。 (詳細はこちら

久しぶりに心が震る程感動しちゃいました。

最近ぼちぼち映画観てきたし、それなりに面白ものもあった。
それでも、楽しませて頂きましたくらいのレベルにしか遭遇してなかった。
この作品には心を奪われてしまったと言っていい。

借りたきっかけは実に単純で、監督がガス・ヴァン・サントだったからというだけの理由。
元々好きな監督だったので。
それ以外はこの映画に関する事前情報は一切なしで視聴した。


最後まで気づかんかったのだがこの映画は実話を元にしている。
1970年代にマイノリティの為に戦ったゲイの活動家の最後の8年間を描いた、ドキュメンタリータッチのバリバリ社会派な作品。
映画の中でもエンディングを見れば実話が元になっているってわかるんだけど、事前情報もなく、当時の政治のことも良く知らないので気づかなかった。

Milkなんていう可愛らしいタイトルからは想像もできないような内容なんだけど、タイトルのMilkは別に牛乳のことじゃなくてねw
主人公の名前なの。


ガス・ヴァン・サントといえば「マイ・プライベート・アイダホ」の印象が強くて、自分の中ではロードムービーのイメージが定着していた。
実際にはそれ以外の方が多いけど。



ガス・ヴァン・サント自身がゲイであることを考えると、この映画に対する思いは並々ならぬものがあっただろうと思うし、とても愛情が注がれている作品だということも十分感じることが出来る。


同性愛に抵抗のある人にとっては観るのがしんどいシーンも結構あるかな。

私自身は、むしろその真直ぐさに心を揺さぶられたくらいであるが。


たかだか40年程度遡っただけなのに、当時は同性愛を禁止する法案の成立をめぐって本気で戦いが行われていたのだ。
特に教員は青少年によからぬ影響を与えるとかで、ゲイの教員は解雇するべきだと主張する政治家まで現れる。

アメリカでは政治の背景に宗教の思想が色濃く反映されるなんてのはごぐ普通のことなんだろう。

個人的な嗜好の問題ではなく、宗教的に禁忌であるというベースの上に成り立っていて(もっともそのことが個人の嗜好にも影響すること考えると個人的嗜好ともいえるんだけど)、表立った政においてはもっともらしい理由を並べ立ててはいるが、実際には宗教的な思想に反しているから許せないというところなのだろう。



同性しか愛せないということは罪になるのだろうか?
あらゆる生物が種の保存の為に生きているのだとすれば、ゲイである以上その役割を果たすことは出来ず、生物界の掟からのはみ出し者であるということは事実だろう。

生理学が進歩した今では性同一性障害という言葉や意味も一般的に浸透してきているが、当時のストレートな人にとってみると、同性愛者はただの変態に等しい。
変態=本人の不徳の致すところ。
だから、迫害されても文句は言うな。ということだ。

劇中でも、同性愛者であることを親に知られた青年が殴られたり、「治す」為に医者に連れて行くと告げられたりする描写がある。
そのたびに、ミルクは「何も悪いことはしてないのだから、気に病むことはない」と励まし続ける。

切なる魂の叫び。
その苦しみを理解することなど到底できはしないのだが、もしも自分が人を好きになっただけで、人格まで否定され、社会的にも迫害されるようなことがあるとしたらどれほど悲しいだろうかと、想像するとやりきれない。

そんな切実なストーリーを役者達が実に素晴らしく再現してくれている。
この映画でショーン・ペンはアカデミーを取ってる。

エンディングで、主要人物の役者の映像と役者が演じた実在の人物の映像(人によっては写真だけ)が流れるが、見事にみんなそっくりで驚く。

個人的にはスコット・スミス役の俳優がとってもキュートで魅力的だったなぁ。(髪の毛切る前まで)
キャラも個性的で素晴らしく、ストーリーも心にささる。
文句のつけようがない!
何よりも、この作品に対する作り手の愛の形が大好きになった。

そんなに簡単に嗜好を変えられたら苦労はしない。
何度も戦いを挑む、それこそ大げさじゃなく命がけだった。
脅迫されたこともある、反対派から圧力をかけられることだってある。
そして最後はとうとう、敵対する輩の手にかかって命を落としてしまう。


39歳まで何一つ残せるものが無かった彼が、40歳にして自分に正直に生きることを選択した。
その勇気と決断力に心が躍り、うらやましくもある。
自分にとって好意的な人物像がそこにある。
彼自身というよりも彼をそこに導いたスコットに対する思いの方が強いけど。
スコットのように大局が見えていて、冒険も出来る人物には憧れる。

「きっと50までは生きられない」
40歳の誕生日にポツリと呟く。
そして、彼の人生は48で幕を引く。

だけど、何一つ残せていないと嘆いていたあのころには想像もできなかったようなたくさんの宝ものを抱えて。
道半ばではあったけれど彼の遺志はしっかりと仲間が引き継いでくれた。
同性愛という枠にとどまらず、あらゆる人種差別や迫害に確実に布石を投じることが適ったんだよね。
何一つ残せていないなんて、きっと最後は思わなかったよね。
そうであって欲しい。

きっとまた観たい。
素敵な映画でした。
やっぱガス・ヴァン・サントは好きでした。


総評:☆☆☆☆☆
物語:☆☆☆☆☆
演出:☆☆☆
映像:☆☆☆☆
音楽:☆☆☆
役者:☆☆☆☆☆

<ジャンル>
ドキュメンタリータッチの社会派ドラマ
そして、あえて恋愛もいれとくね

<お奨めの気分>
話しは、シビアなんだけど観やすいように作られているので、意外と軽い感じで入ってもちゃんと観られる

決断に迷っているときや背中を押してもらいたい気分の時もいいかな