ひと昔映画日記

素人の映画雑食日記 それこそ我が映画道

ココシリ(2004)

加工されていない本物の自然の美しさと厳しさに心を奪われた

 
監督:ルー・チューアン
出演者:デュオ・ブジエ、 チャン・レイ、 キィ・リャン、 チャオ・シュエジェン
収録時間:89分
 

 

Story
『ミッシング・ガン』のルー・チューアン監督が、中国でセンセーションを巻き起こした実話を映画化した衝撃作。チベットの峻厳な大自然を舞台に、チベットカモシカを狙う密猟組織とマウンテンパトロール隊員たちとの命を賭けた壮絶な闘いを描く。 (詳細はこちら

あらすじに実話を映画化したって書いてありますが、この辺はあんまり追求してもしょうがないので、着想を得ているくらいの温度で受け止めて視聴しました。

 

山岳警備隊とは言っても私設なんです。

全員がボランティアでやってるんです。

そして、北京からやってきたジャーナリストが今回の出動に随伴する事になります。

 

冒頭でその設定を知って、軽いものを想像してしまったのですが、実際は大間違い。

命懸けなんですよ。

日帰りで交代で見張りとかしてんのかな?

くらいで思ってましたが、密猟者の足跡が見つかれば何日かかろうと捕まえるまで追い続けるというような、長丁場で過酷なものだったのです。

その間、密猟者との対峙だけではなく、飢え、寒さ、移動手段、その他諸々、危険な要素があまりにも多すぎます。

 

もう、常軌を逸してるでしょう。

そりゃ、お手軽ボランティアならやらない事もないですよね。

けど、命懸けのボランティアとなったらどうですか。

尋常じゃないでしょう。

よっぽどの事でもない限りそんなのできないよって思う。

 

何故、そこまでして。。。

っていう背景の裏打ちは弱いというよりほぼありませんw

ご自由に想像してくださいって事ですかね。

心得た。

とは言いつつ、結局それが無いと感情移入が難しいのは事実です。

ひたすら厳しい自然と、厳しい生活、厳しい現実を叩きつけられます。

やり切れない気持ちが加速度的に募っていく。

そういう作品です。

不思議ですね、登場人物の誰かに感情移入するわけではないのに、揺さぶられるなんて。

 

チベットの秘境ココシリでチベットカモシカを密猟から守るために彼らは命を賭けて密猟者を追います。

一度離れたらもう二度と仲間とは会えないかもしれない。

常にそんな危険を孕んでいるからでしょうか。

彼らは再会をこれでもかと言うほど大げさなくらいに喜び、別れはひと時でも永遠の別れのように惜しみます。

ジャケットの絵はちょうど別れのシーンですね。

また会おう、気をつけるんだぞ。

 

そして、本当にたくさんの人が死んでゆきます。

仲間も、犯罪者も様々な理由で。

人の死がまるで、日常の風景の様に切り取られる様は圧巻です。

だからこそ畏怖を感じずにはいられません。

 

音楽も繊細で良いですね。

厳しさも含めた自然の風景も本当に美しいです。

砂漠のように何もないところから見上げる満天の星空はどれほど美しいのでしょうか。

映像でも感慨深いですが、本当の美しさは実際に見た人にしかわからないのでしょうね。

 

 

何よりも特筆すべきは、この作品に対する執念のようなものです。

作り手の、ですね。

あの映像を撮る為にどれだけの苦労と危険があった事だろうか。

標高5000mです。

ジッとしてるだけでもしんどそうな厳しい条件の土地へ実際に行って撮影しているわけですから、下手な小細工なんて逆効果ですよね。

手を加えていない事が、この作品の良さを引き出しているのでしょうし、圧倒的なリアリティを実現させているのだと思います。

(ストーリーのリアルさは別の話)

 

惜しむらくは、女性と男性のキャラに差が有り過ぎる事です。

男性たちは秘境に住んでいる雰囲気がありました(一部カッコよすぎるけど)が、女性は都会から連れてきたような感じで、どう見ても秘境に住んでる人じゃないでしょう?ってのが不自然でしたー。

せっかくのリアリティを壊してる感じで残念だったなぁ。

 

けど、それを差し引いても色んな視点から、見るべき価値の高い映画だと思いました。

 

 

↓ネタバレ

地主や資産家じゃあるまし、ボランティアだけで食べて行ける訳ないでしょう?

実際のところは密猟者から奪った毛皮を一部売って生計を立てているのですね。

勿論、売りさばく事だけでも犯罪です。

そういう矛盾を抱えながら、善と悪の境界をゆらゆらと彷徨っているような、ここでもまた、やるせない思いを植えつけられるのです。

もし、自分があのジャーナリストの立場だったら?

彼らに何か言ってあげられる事、アドバイスできる事なんてあるだろうか。

自分の非力さと軽率さを恥じる以外に出来る事などなかった気がする。

(戻った後は彼もひと仕事したけどね。まぁ、それ程の経験をしたものね)

 

そして、流砂(蟻地獄のようなやつ)に人が飲み込まれていくシーンはかなりショッキングでした。

普段は映画に集中して静かに見るのが自分の流儀ですが、思わず声を上げてしまいました。

余韻と静けさが相乗効果になっていて、一層恐ろしい感じがしました。

うまいですね。

この監督さん知りませんでしたけど。

※余談:あんなのホントにあったら恐ろしいな、と思い調べたところ、流砂の比重は高いので人間は浮く、もしくは一定以上は沈まないのが普通らしい。なのでゆっくり慎重に動けば大概は脱出できるのだそうだよ。

 

 

 

総評:☆☆☆
物語:☆☆☆
演出:☆☆
映像:☆☆☆
音響:☆☆☆
役者:☆☆☆☆

 

<ジャンル>

人間ドラマですけど、実話などの経緯も加味して、社会派に振りました

若干畑違いな気もしたんだけど、男たちの骨太で硬派な姿はやっぱハードボイルドだわって事で入れときました。

 

<オススメ>

 社会や善悪についてなどのメッセージ性が強い作品が好きな人はどうぞ。

娯楽性は皆無なので娯楽映画しか観ない人は観てはいけない。