ひと昔映画日記

素人の映画雑食日記 それこそ我が映画道

プライベート・ソルジャー(1998)

バカにできんよ、そこそこキテるって

ジョン・アーヴィンの撮った戦争映画ですな。舞台はヨーロッパ。
ジョン・アーヴィンといえば、昔ハンバーガーヒルという戦争映画を撮っている。
その美味しそうなネーミングとは裏腹に「人間の肉片」に由来するタイトルである。
ま、ハンバーガーヒルも近いうち観直しするので細かいことはそっちで書くとして、

今回はプライベート・ソルジャー
この映画は今回初視聴。
ハンバーガーヒルの方はベトナム戦争が舞台だが、こちらは第二次大戦下のヨーロッパが舞台となっており“ノルマンディー上陸”をも越える悲劇を生んだ“ヒュルトゲンの森の戦い”を扱っている。


タイトルからしても一見B級のニオイがするのだが、なんのなんの!なかなかのモンですよ。
とはいってもこのタイトルは日本が勝手につけた名前で原題とは関係ない気がするよ・・・
完全にプロモーション失敗の類です。

個人的に「お涙ちょうだい、アメリカ万歳」戦争映画ではないところが気に入った。
ジョンがイギリス人だからねっ。

自分の中では、明確な反戦映画という認識ではなかったな。
所謂「戦争なんてやめましょう!」的なテーマは見当たらない。
どちらかかとういと「あの時、あの場所でこういうことがありました」
そんな感じたと受け止めた。
それに対して、何を思うのかは自ら考えて行動するべきなのだと。


さて映画の内容の方はというとー
アメリカの兵士役が地味w
なんだけど、そのことでドイツ軍の兵士の個性が際立つ異色な作品だと思うし、
その地味さゆえに重さを感じるというか、リアリティにボーナスが入る。
きっと名のある俳優を使っていたらこのリアリティは表現し切れなかっただろうな。
しかし、地味とはいってもそれぞれ役柄に応じた個性がしっかりとあるので、
より戦闘シーンの凄まじさを盛り立てる結果にもなっている。


生への執着と背中に迫る死の恐怖。
諦めきれないところでの狂気と抵抗、覚悟を決めたことでの悟りと開放。
さまざまな形で人間の弁がはじけ飛んでいく。


重症を負った仲間の兵士を担いで基地へ戻る途中、これ以上怪我人を背負ったまま戻ろうとするなら、自分の命も無いと悟った主人公の兵士は、自らの手で仲間の兵士を殺める。
そんなシーンからこの映画はスタートするのである。



※以下ネタばれ

主人公はアメリカ側の下級兵士で、全編を通して無感情であるかのように描かれている。
解りやすさでいうと、入って行きずらい映画ではあるだろう。
勧善懲悪の類が好きな人には向かない映画といえるでしょーね。
しかし、私としてはそれでよかった、それがよかったと言える。
主人公の意図する着地点が見えないからこそ、真実と思える。


現場を知らない上官との諍い、次々に死んでいく仲間達。
極限状態を越えた人間が到達する姿を見ているようで、圧迫される。

基地の脇に並べられた死体の群れの中から徐に靴を脱がせ自分の履いていた痛んだ靴と取り替える。
マネキンの足から靴を脱がせるかの如く実に淡々と。

暖かい食事とタバコのご褒美に浮かれる新人兵士達の隣で、それが最後の晩餐的な暗黙の儀式だと察しているベテラン兵士達は、対照的に緊張した面持ちになる。
このご褒美が意味するものが突撃命令の前触れであることを知っているからだ。
死線を乗り越えてきた兵士なら尚のこと、二度と出くわしたくない場面であっただろう。


直属の上司達が次々に死んでいく為、本人の意思に反して短期間のうちにあれよあれよと昇進させられる羽目になる。
「お前に断る権利などない」
「命令は絶対だ」
「意見などするな」

気がつけば新人兵士を束ねて、上官として戦場に向かうことに。。。
戦闘の経験が無い兵士を数名連れての作戦中、恐怖に支配された新兵の1人が突然戦線を離脱しようと背中を向けて逃げ出す。
主人公は躊躇無くその新兵を自分のピストルで射殺する。
他の新兵はその狂気を目の当たりにして、前進する以外に生き延びる道は無いのだと悟る。
いや、前進したところで生き延びる保障などもとよりない。
むしろ死ぬ可能性のがずっと高いのだ。
それでも逃げ出すことで今すぐ射殺されるくらいなら、もう行くしかないのだ、敵に向かって突入する以外の道など無いのだ。


自分の意志で自分の命を懸けた戦いであるならば、そこに魂の落としどころというのも見出せそうなものだが、自分では望まない戦いの為に、命を懸けるということがどれほど人が人であるための土台を破壊してまうのかが、ずっしりと打ち込まれる。

自我というのは厄介だ、しかしそれを失っては自分は自分でなくなってしまう。
かといって逆に強すぎても共生してはいけない。


世の中の理不尽をあぶり出しにしたような映画だった。
多感な人ならきっとキャッチするものが多い映画だと思う。



総評:☆☆☆☆

物語:☆☆☆☆

演出:☆☆☆☆

映像:☆☆☆

音楽:☆☆☆

役者:☆☆☆
製作年:1998

<ジャンル>
戦争

<お奨めの気分>
それなりに重量感はあるので、多少気合が必要かな
戦争や紛争について、自分の意志で考えてみたいと思った時